「澪は何が気に食わないんだ?」
彼の部屋。せっかくのデートなのに何故かお説教モード
目の前にいる彼氏は快ちゃん。
別にって答えたけれど本当は言いたくてでも言えない事がたくさんあったりした。
いつもの私の悪い癖。こんなこと言ったら怒られるかなとか
嫌われちゃうんじゃないかなって気になる。
「別に不満があるわけじゃないけど…」
「けど?」
そんな語尾の微妙な部分を逃さない快ちゃん
こんなときほどスルーして欲しいのに。
「いや…ほんとに何もなくて」
「あっそ」
それ、そういう何気ない言葉で悲しくなるのよってもちろん心の中で言った。
快ちゃんはモテてきたからそういう所を気をつけなくても
女の子が寄ってきたんだろうな。だから、さらっと冷たい言葉が言えるんだろうな
「不満そうな顔してるな」
「え・・・」
そして女の子の顔色の変化を伺うのも上手。でも微妙に違うんだよ
「不満」なんじゃなくて・・・・。そういう微妙な気持ち気付いてよ。
「不満があるなら言えって」
「不満はない」
「”は”って事は不満以外はあるんだな?」
「・・・・・。」
また微妙な言葉が快ちゃんによって拾われる。
今しか言うときないような気がしてきてこんな風に尋問されたら言わざる得なくて
本当は言うつもりなんてなかったのに重い口を開いてしまった。
「あのさ…」
「ん?」
「快ちゃんって…他に何人女の子いるの?」
「はっ???」
新聞を読んでいた快ちゃんが急に記事から視線を上げた。
思わず目が合って恥ずかしくなってうつむく。
「は?」って言われたあと快ちゃんの機嫌が悪くなるって
もちろん私は知ってるわけで気まずくなった。
やっぱりいわなきゃ良かったって…後の祭りで。
「俺って澪の何?」
「彼氏だけど…」
「じゃあ他の女の子って何?」
「・・・・・・。」
「答えろ」
「快ちゃん怖いよ…」
私の言葉にただ溜息だけをついた快ちゃん。
それも。その溜息も。私には悲しくなるんだよ。
快ちゃんの一つ一つの言動で悲しくなる
でもそれは快ちゃんが好きだからだって自分でも分かっている。
ただ沈黙の時間が二人の間に流れてしまう。こういう時間がとてつもなく嫌い。
だから沈黙を押し破ることが出来る言葉を何か探した。
「ごめん。忘れて?」
私の口から出た言葉は結局うやむやにする言葉だった。
この問題をうやむやにしてしまおうって考えた。
「いや、おかしいだろ。」
「だからごめんって…」
「ごめんじゃないだろうが。おい」
言いたくても言えないセリフがなんだか胸に詰まってて
苦しくなって言葉の代わりに涙がこぼれた。
本当は怒らせたいわけじゃなかったし。
「泣かなくてもいいだろ」
突然泣き出した私の涙を見て少し快ちゃんは焦ってるように見えた。
いつもは冷たくて何気ない言葉で私を傷つけるのに
泣き出してしまうことも予想してるわけじゃないの?って思った。
「どれだけ自分に自信がないんだよ」
「自信なんて…あるわけないよ」
「俺がこれだけ好きって言ってるのに信じないんだな」
「そうじゃなくて・・・・」
「そうだろ」
そうじゃないのにそうだと思われても仕方ない状況で
このままもう終わってしまうかもしれないって思った。
こんな面倒くさい女なんて私が男でも嫌だと思ってしまうから。
うつむいて泣く私の顔に快ちゃんの手が近づく。
ぶたれるって思って目をぎゅーって閉じた。
でも私の体が感じたのはぶたれる衝撃じゃなくてぬくもりだった。
目からこぼれた涙を快ちゃんの指がそっと拭ってくれてた。
「嫌ってないから泣くな」
嫌われても仕方ないって思ってるのに嫌ってないって言われて
そんな快ちゃんの優しい言葉にさらに涙が出てしまう。
泣くなって言われてるのに泣きやめなかった。
快ちゃんはそのまま私を膝の上に乗せた。
「いやっ…」
「うるさい。黙ってろ」
パンっ!
スカートの上から鈍い痛みがお尻に走った。だけど痛くはない。
痛くないけどぶたれた衝撃で床に涙が落ちた。
「快ちゃん・・・・痛い」
「痛いのは知ってる。何も分かってないのも知ってる」
「・・・・分かってるもん」
普段はそんなしゃべり方なんてしない私が子供になる。
対等でいたいくせに快ちゃんには敵わない自分も嫌いじゃなかった。
でも…なにかあるたびに泣くくらいに痛くされてしまうのは
優しくないし本当に大切なの?って思った。
「どうしてこんなにひどくたたくの?」
「ん?」
「私のこと大切じゃないの?」
痛みは続いたままで快ちゃんはため息をついた。
私の嫌いな溜息。また呆れられた。
「大切だからだろ」
「意味分からないよ…いたい。」
「痛いばかりじゃなくて考えろ」
そのあとは悲惨だった。
大きな声で泣きわめいても痛みが止まらなかった。
快ちゃんが怒ってるのが怖くてワンワン泣いた。
終わった頃にはお尻がジンジンいたくて座れなかった。
きっと明日には痣になるんだろうなって思った。
快ちゃんはお尻を冷やしてくれない。撫でてもくれない。
そういうお仕置きの後の幸せに浸りたいのに。
「ひどいよ…」
「じゃあもう叱らなくていいな」
「そうじゃなくて・・・・!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声だった
胸の中のモヤモヤを表現したくて出来なくて
そのもどかしさが胸をさらに苦しくさせた。
「お前は俺を見ようとしてくれないのか」
「え・・・?」
あまりにも後ろ向きな快ちゃんの発言に耳を疑った。
「お前の中では俺はそういう人間としか見てもらえないのか」
「・・・・・。」
その言葉を聞いて初めて快ちゃんを傷つけたって気づいた。
あの言葉は私の不安を快ちゃんに伝えたつもりだったけれど
本当はこの言葉で一番傷ついていたのは快ちゃんだった。
そんな事に気づかなくってわがままばかり並べてた自分が馬鹿だった。
「傷つけてごめん・・ね・」
「あぁ。」
「そういうつもりじゃ…」
「あぁ。分かってる。」
「うん…」
いままで自分ばかり傷ついてたと思ってた。
だけど私も知らず知らずのうちに快ちゃんを傷つけてたんだ。
そういうことだったんだって気づいた。
「怖くなる日がある」
「何が怖いの。傍にいるだろ」
「そうじゃない…傍にいてくれるけど…」
「なに?」
「優しさが怖くなる日がある」
「なるほどね」
「わがままだけど…そんな日がある」
快ちゃんに抱きしめられてる今なら素直に言える気がした。
胸の中でつっかえてる何かを話せる気がした。
それを受け取ってもらえるかなんて分からなかったけど
それでも伝えなくちゃいけない気がした。
「こんな歳になってなんておかしいけど…」
「そう?俺には子供にしか見えないけど」
「子供じゃない…でも大人でもない
どっちにもなれないのが辛い日があったりする」
「子供でいればいいんじゃない?」
「そのうち嫌になるよ」
「ならないよ」
「めんどくせーって思うようになるよ」
「なりません」
「・・・・。」
「ん?」
「本当に?」
「俺がウソついたことあったのか?」
「ない…。」
「だったらただ信じていればいい」
どんな自分でいれば嫌われないのか
どんな自分になれば好きでいてもらえるのか
そんな漠然としたものの答えなんて見つからなかった。
他に女の子がいるかもしれないって疑ってしまった
だけど快ちゃんが涙をぬぐってくれたあの温もりは
まぎれもなく私を大切にしてくれているサインだった。
温かい体温をしっかりとこの身で感じたから
あの温もりを疑うことなんてできないから
だから私は信じようと思った。
「ありがとう。」
私のその一言を聞いて快ちゃんは「あぁ」って返事をした。
とても落ち着いた大好きな声だった。
「何で私の傍にいてくれるの?」
「好きだからじゃないの?」
「何で疑問形なの?」
「お前が疑問形だから」
「・・・・。」
「傍にいろっていって欲しいなら
疑問形じゃなく傍にいたいって言いきればいい」
「でも…」
「嫌ならやめときゃいい」
こんな所、快ちゃんは本当にクールだって思う
女心を癒してくれるような答えは返ってこない
言葉は冷たい人なんだけれど
だけど快ちゃんの温もりはあたたかい。
涙をぬぐってくれる手はあたたかい
私は静かに肩に顔を寄せた。
静かに頭を撫でてくれた。
「傍にいたいよ…。」
「ずっと傍にいろ」
「それとおしおき明日もう一度な?」
快ちゃんが疑問形じゃない答えをくれた
自然に切ない涙が流れて落ちた。
明日のおしおきが嫌で泣いてるんじゃない
ねぇ快ちゃんずっとずっと傍にいてね…。
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